2007年の年が明けて正月になった。私にとってはめでたくもなんともない正月。体調不良と喪中だったことも相まって、旦那の実家にすら顔をださなかった。
テレビでは、どの局でも正月の特番ばかりしていたが、私はそんな気分にもなれず、興味もわかず、いつもと変わらない鬱々とした日々を過ごしていた。
数日後、姉から病院の予約がとれたとの連絡があった。私は精神科とか心療内科というような場所にはお世話になったことがない。何を聞かれるんだろう。何か心理テストみたいなことをさせられるのだろうか。不安ばかりが大きくなっていく。
姉は心配ないよ、と言ってくれるが、こんな気分のうえ、行ったことのない場所に行き、しらない先生に鬱々とした状況を話さなければならないのかもしれない。不安を感じずにはいられなかった。
そんな状況のなか、いよいよ病院に行く当日。昼前に姉が車で自宅まできてくれ、そこから歩いて病院へ向かった。
緊張しながら病院の扉を開ける。思っていたほど院内は暗くなく、明るくさわやかなイメージ。混雑をしていたが、嫌な感じはしなかった。
スリッパに履き替えて受付へ向かう。初診ということで問診表を渡された。体がダルいうえに、手に震えがでていた私は、問診表の記入欄の多さに辟易したが、書かないわけにはいかない。しょうがなく氏名の欄から記入をし始めた。
問診表には、氏名・住所から始まって、自分の性格や最近の気になる症状、家族構成まで書く欄があった。
問診表と格闘すること十数分。やっとの思いで記入欄をすべて書き終え、受け付けに提出した。やはり内科や外科などとは違うなという感想。
この日は、患者さんが多く、かなり込んでいたため、診察までに1時間近く待たされた。体がダルく、肩も背中も痛みがでてきたが、辛抱して待つしかない。
やっとの事で名前が呼ばれた。私は緊張して冷や汗をかきながら案内された診察室へ入った。姉と二人で進められた椅子へ座る。
診察室は想像と違っていた。先生は白衣をきてなく私服で、個室のオフィスのような空間になっていた。
さっそく診察がはじまる。
うまく考えがまとまらず説明できない私に代わり、姉が一生懸命いままでの経過を説明してくれていた。先生は姉の説明を聞きながら問診表をみて開口一言。
「うつ病ですね。」
やっぱりそうですか。覚悟はしていたがやっぱりショック。私は病気なんだ。
念のためにうつ病のチェックをするため、小さな用紙を渡され記入するよう言われた。
用紙には、十数個の質問とチェック方式の記入欄。質問は、「つねに憂鬱な気分である」「よく眠れない」「食欲がない」「自殺したいと思ったことがある」などなど、全部は覚えていないが、そんな感じだった。それらの項目に対して、「いつも」「しばしば」「ときどき」「ない」の4段階方式であてはまる答えにチェックをいれていく。すべての項目を記入しおえると、それを点数に換算して、うつ病の重傷度を割り出すというものだった。
先生が各項目の答えに対し数字を書き込み、合計点を出していく。結果はあっけなく伝えられた。
「重度のうつ病ですね。」
重度!? ショック大。うつ病とはなんとなく周りの反応からして覚悟はしていたが、まさか重度と言われるとは思っていなかった。
「せめてもの救いは、自殺願望がないことですね。」と先生。
私は自殺願望の項目は「ない」にチェックを入れていた。あまりの辛さと孤独感から消えてしまいたい、いなくなりたいとは思ったことはあったが、自殺を考えたことはなかったからだ。
その後、うつ病という病気に関して、とても丁寧な説明があり、ストレスでなる人もいるが、原因がないのにうつ病になる人もいるから、原因追求はしなくて大丈夫と言われた。
原因がわからなくても重度のうつ病になるんだ。私の頭は「重度」と言われた事がショックで頭の中が一杯となり、テキパキとした口調で、病気の説明を続ける先生の話についていけずにいた。
そのうえ、「今まで、辛かったね。大変だったでしょ。」という先生の一言で、涙が溢れてきて、とても話を理解して聞く状況ではなくなってしまった。
説明に対し疑問に思った点は、つねに姉が先陣を切って質問をしてくれている。ここでも私は殆どの対応を姉にまかせ、溢れてくる涙を抑えるので必死だった。
先生の話によると、うつ病の治療法は薬物療法によるものが主で、あとは無理せず、しっかりとした休養をとって決められた薬をかならず飲むようにする。頑張りすぎるのはダメとの事だった。やる気とか気持ちの問題ではなく、脳内に分泌される成分のバランスがくずれてなる病気なので、頑張っても意味がないとのことだった。
先生はほかにも色々な話をしてくれていたが、細かい内容云々より、自分の目に見えない不調をはっきりと説明してくれることがうれしくて、どこかほっとした部分があり、安心する部分もあった。
薬の効果がでるのは3ヶ月くらいかかるという事だった。効果がでるまでに時間がかかるので、忘れずに薬を飲むようにしなければならない。今でさえ辛いのに、すくなくともあと3ヶ月は我慢しなければならないのかと思う気持ちもあったが、とりあえず改善する方法がわかった事がよかったように思えた。
私たちは、うつ病のことをわかりやすく説明している冊子をうけとり、診察室を後にした。思っていたような面倒なテストも嫌な質問もなく診察が終わり、ほっとした。
病院で処方箋をもらって薬局へ行く。出された薬は3種類。気持ちを楽にする薬と不安を和らげる薬。それと睡眠薬。
今日からは毎日これを飲まなければならない。でも少なくとも眠れるようにはなるだろう。今の自分にとっては、眠れるようになることだけでも嬉しい事だった。
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